リモートセンシングの光と闇
こんにちは、Dr. Saitoです。
懐かしの日記転載シリーズ。これは、2016年の博士課程3年生の時に後輩と話していたことの備忘録です。当時は、研究があまりうまくいっていないせいか、かなりネガティブに考えていました。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
とある日の後輩との議論の備忘録。
まぁ、端的に言えば、自分の研究にエキサイトしてないな〜って話。
まずは、私の研究対象について簡単に紹介する。
リモートセンシングとは
Remote sensing: リモートセンシングとは、地上、人工衛星、あるいは航空機に搭載された測器を用いて測器から離れた対象物を観測することであり、遠隔探査と訳す。
例えば、人工衛星から積乱雲や台風の特徴を測るのもリモートセンシング技術が必要だし、身近なことだと、車の自動ブレーキも広義のリモートセンシング術と言えよう。
実はこれが今私が取り組んでいる研究のテーマであり、かれこれ4年間リモートセンシング技術の開発に携わっている。
何故、リモートセンシングの世界に飛び込んだかというと、主に以下の2つである。
- 学習の自己鍛錬
- 好奇心
リモートセンシングは、基盤となる放射伝達理論はもとより、光散乱理論、統計理論、誤差伝搬などといった様々な知識を必要とする。よって、この学生期間にしっかりと学習できると思っていたことが一番の理由である。
また、ただの電磁波の信号を物理的に解釈して、雲の厚さや粒の大きさの情報を推定することができるので、「なんて興味深く、刺激的で、面白いんだ!」と思ったのも大きな理由であり、この好奇心が研究を続けるエネルギーの根源になっている。
大気科学分野に限って話しても、リモートセンシングによって推定する対象は大気微粒子*1や雲の特性、温室効果ガスから地表面特性まで多岐に渡る。
それぞれの対象に合わせてアルゴリズム*2をデザインする。上質なものだと立案からコード開発、完成まで最短でもおよそ1年かかる。
楽しかった博士前期と鬱々とした博士後期
博士前期では、夢中になって勉強しては試行錯誤を繰り返す過程が楽しかった。早くアルゴリズムが動くようにしたいと思い続けながらあっという間に過ぎた(完成は修士論文提出直前となり、3日連続徹夜するなどドタバタした)。
学ぶこと全てがキラキラして見えたし、リモートセンシングの魅力にどっぷりと使っていたように思う。
しかし、博士課程後期に入り、そのキラキラはだんだん薄れてきた。学べば学ぶほど、元をたどれば全て同じ理論にたどり着く。結局既存技術の組み合わせの問題で、この研究で何ら新しいことをしていないのではと疑問を持つようになった。自分の研究のオリジナリティとは何か?この研究、自分ではなくてもできるのではないか?それなら、自分が研究者であることの意義は何か?
このようなことをぐるぐると考えては苦悩の日々を過ごしていた。なぜこうなってしまったのか。原因はわからないが、悩んでいても仕方がないので以下の解決方法を考えていた。
- 先人の知恵を見ないで自分で突き詰めていく
- 諦める
- とことん深く勉強する
1と3は似ているようで違う。ちなみに、同じ分野の後輩は、一時的に(2)を選んでいた。
私はどうだろう。
結論は出ていないけど、研究者は先に進むしかない。博士を取る頃には、結論出ているといいな。
2016年6月10日 記
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
さて、現在実際に博士号を取ったので、およそ一年前の疑問に答えを与えることとしよう。
まず、その後この研究はどうなったかというと、既存の手法に則ってはいるものの、複数の手法を組み合わせた点や、誤差解析などを緻密に行った結果、新しい物理量の定量的な推定に成功しました。これは、個人的には胸を張ってもいい結果だと思っています。
それが博士論文の本丸となり、学位取得に至りました。
既存の手法でも、組み合わせのアイデアや緻密な解析は誰もができることではありません。机上の空論は誰ても展開できますが、それを実際のシステム・プロダクト開発となるととてつもない苦労を強いられます。でも、それをやったのですから、誰でもできるとは思っていません。これこそが、自分が研究者であることの意味づけになった気がします。
既存の手法を組み合わせ、膨大な作業を要するが、なるべく近似を用いずに物理法則に則って解く。それをコツコツと積み重ね、新しい知見を生み出す。
それはとてもエキサイティングなことではないか!!
今でも、リモートセンシングの研究に携わっていますが、毎日楽しいです。
というわけで、当時の悩める私に対しての答えは、
「研究における"自分らしさ"を誇りにもって、邁進する」
です。
これからも頑張るぞ。