テキサス研究留学日記

テキサスに放牧された大学院生が博士号を取るまでの奮闘記と、その後の話。

動き出した時計の針

こんにちは。Dr. Saitoです。

 

先日、同じ地域に住む日本人が集まるクリスマスパーティーに参加してきました。参加者は20名ほど。これは驚きの多さです(街の日本人の半分くらいは参加しているのではと思うほど)。

 

そこで、同じ大学に勤める学生や研究者の方とお会いしてお話をする機会が得られました。研究者と言っても、僕と同じポスドクの方から、教授まで幅が広いです。

 

家の外で日本語を話す機会などほとんどないこの街で、たわいもない会話から生活の相談などを日本語でたくさん話せたので、かなり気分転換になりました。

 

さて、その会話の中でいくつか研究者として大切な心得を教えていただいたので、その覚書を記したいと思います。この心得は、研究者に共通するものもあれば、米国で研究者として生き残っていく上で重要なものもあります。貴重な話を現地の教授の方から教えていただく機会もそうないので、興味がある方に共有したいと思います。

 

 

アメリカでポジションを獲得するには

 

以下の2点が非常に重視されるようです。

  1. 業績
  2. 資金獲得能力

 (1)の業績は、学術論文や、国際会議での発表などです。

学術論文は近年h-indexが業績を客観的に示す良い指標となっているようです。また、学術論文の雑誌インパクトファクター論文がどれだけ引用されているかということも、業績を評価する一要素となっているようです。

国際会議での発表は、通常講演の他に、招待講演があるとポイントが高いようです。

 

(2)については、あくまでも資金獲得「能力」を示すことが大事です。日本では、自分がPIとなって競争的資金を獲得することでその「能力」を示すことができますが、米国の場合(日本の場合もそうだろうが)、評価者と申請者の関係性が完全な独立ではないので、名の知れないポスドクがPIとなって競争的資金に応募したところで勝ち目がない(ことが多い)のだという。

そこで、アメリカで競争的資金に応募する場合は、現在のPIを競争的資金のPIとして応募し(もちろん、研究計画は自分で考えます)、PIの許可が出れば自分をCo-PIとするか、現在のPIに「この競争的資金は概ねポスドクの○○が作成しました」というレターを書いてもらうことで、獲得した競争的資金のPIが自分ではなくても、その「能力」を示すことができます。

僕はこれを聞いて目からウロコが落ちました。こんなやり方があるだなんて。

 

また、現在のPIがポスドク自身をPIとして競争的資金に応募させることは、2つの理由であまり好ましく思いません。

理由1:ポスドクが別のポジションを獲得したときに、その資金が(ポスドクに従属しているため)使用できなくなるから。

理由2:ポスドクがPIとして申請書を出しても通らないので時間の無駄だから。

 

世の中甘くないですね。もちろん、ポスドクには研究専念義務がありますので、新しく競争的資金に応募するなら現状のエフォート率を鑑みて、PIと相談する必要があります。

 

ポジションに応募するときは、基本的には履歴書(CV)と推薦書を応募先に送り、声がかかればインタビュー(電話や面接)を受けます。そこでオファーをもらうこともありますし、プレゼンテーションを要求される場合もあるようです。

 

キャリア序盤の研究者として大事なこと

博士号を取得したら、多くの人はポスドクからキャリアをスタートさせることでしょう。博士で学んだことを生かして研究を進めよう!なんて思っているときっと後で困ることも多いでしょう。少なくとも、すでに大学のポジションについている方たちは「ポスドクがキャリアの中で最も研究に集中できた」とおっしゃっています。

しかし、単に目の前の課題に取り組んでいるだけでは研究の幅が広がりません。ポスドクというキャリアの中では業績を上げることに加えて以下の2つが重要であるようです。

  1. 今後20年で取り組めそうなインパクトのある研究テーマの発掘(裏で遂行)
  2. 博士時代とは別の知識の柱を立てる

少なくとも3つ程度のプロジェクトを並列しながら研究に取り組むのが標準なようです(少なくとも私の周りでは)。それらの遂行だけでもかなり時間が割かれます。しかし、それが全て与えられたプロジェクトであれば、それ以外に何か大きいこと(インパクトのあること)をテーマにして、裏で研究を進める熱意が大事だとようことです。そのテーマが今後の自身のキャリアに大きな影響を及ぼすかも知れません。

また、ポスドクは研究だけでなく、新しい分野の知識を集中的に得る良い機会でもあります。異なる2つの分野の深い知識から分野横断的な研究へと展開していきます。

 

 

さて、クリスマスパーティーの中で自己紹介をしたときに、印象的な言葉をある教授からいただきました。

自分が今年の4月に博士をとって渡米したことを伝えると、

 

教授「ああ、時計の針が動き出しましたね。」

 

ポスドクが次のポジションを得るには時間との勝負だという。同じ論文10本を書いても、それに10年費やした人と1年費やした人では、後者が採用される厳しい世界。時計の針が動き出したからには、もう立ち止まることができない立場になった。

業績重視ではなく時間をかけてインパクトのある研究をすべきという本質的な議論は置いておいて

 

でも、研究者ってそういうものなのかも知れない。

知的好奇心という無限のエネルギーを糧に、今日も時計の針を追いかけるべく、研究に励むのだ。

夢中になって雲を追いかけた少年時代のあの頃のように。

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