テキサス研究留学日記のその後の話(中編)
こんにちは、Dr. Saitoです。
今回のテキサス渡航の話の続きです。
怒涛のテキサス渡航後
2017年8月30日、時差ぼけで頭がぐるぐるする中、ようやくCollege Stationに到着しました。本当ならば、Houstonに到着してからレンタカーを2・3日借りてCollege Stationに向かい、ついでに日用品購入など生活を整える予定でしたが、予定を変更してCollege Station空港から迎えに来てもらうことにしました。
前回の渡航である程度の人脈を作っていたので、今回は非常に助かりました。
そこから、最寄りのレンタカーのオフィスまで連れて行ってもらいました。さて、ここからの予定の流れとしては、
- 携帯ショップにてプリペイド携帯の購入
- 銀行にて口座の凍結解除手続き
- アパート入居
- 家具・日用品の購入
- 大学にcheck-in
これらを一両日中に行い、9月1日から仕事開始というハードスケジュールの予定でした。しかし、そのための最初のステップであるレンタカーのオフィスでトラブルが。
僕「車をレンタルしたいのですが。」
スタッフ「君は"資格"を持っているかい?」
僕「(?)"資格"ってなんですか?」
スタッフ「今はHurricane Harveyで車にダメージを受けた人だけが車をレンタルする資格を持つんだ」
僕「」
なんということでしょう。この瞬間の状況を説明しましょう。
- 連絡手段なし
- 交通手段なし
- スーツケース4つの荷物(総重量85 kg)
- アパートまで4 km
- 気温33度
- 時差ぼけ
- 仕事開始まであと2日
頭を抱えたくなる状態でした。あの時の気持ちが去来します。
「なんだか悪い予感がするな」 旅路につきながら、そう思わずにいられませんでした。
テキサス研究留学日記のその後の話(前編) - テキサス研究留学日記
勘というものは当たるのだなと。1分ほど落ち込んだあと、スーツケース4つを抱えてアパートまで歩いていく決心をしました。汗だくになりながらスーツケースを引きずり歩いていると、後ろから声をかけられました。振り返ると白く輝くトヨタSUVに乗った中年夫婦が
中「君たち、乗って行きな!」
僕「い、いいんですか〜!!!」
そういえば、以前こんなことがありました。
引っ越しは大変だった。旅行鞄4つを転がしながらホテルから引っ越し先までの4kmの道のりを歩く。大変すぎて途方に暮れていると、一台の車が止まり手招き。引っ越し先まで乗せていただいた。アメリカ人は優しい。
テキサス研究留学日記(3)〜到着から1ヶ月まで〜 - テキサス研究留学日記
この町の人はとても優しい。この暑い中スーツケースを4つも引きずって歩いているから、たまらず助けたのだと。車中、色々な話をしました。自分は前にもスーツケースを運んでいる途中に助けられたこと。これから研究者として働くこと。この人はトヨタ車が好きで、この車でもう23万mileも走っているということ。などなど。「僕の名前はBrettだ。何かあったら連絡しな!」名刺までもらい、何度も感謝しながらアパートにて、そのトヨタ車を見送りました。Brett、この恩は一生忘れない。
その日は結局、携帯電話と自転車の購入のみ行い、疲れ果ててアパートの部屋の床で就寝しました。
翌日、硬い床でしたが、精神的・肉体的な疲れもあり、朝8時頃まで爆睡していました。さて、昨日消化できなかったやる事を今日中に終えなければなりません。車がないので自転車で動き回ります。まずは、銀行口座の凍結解除です。実は、前回の渡米の際にまたテキサスに戻ってくることがわかっていたので、まとまった金額を銀行口座に入れておいたのです。これが、今回の生活のセットアップの資金でした。口座凍結解除に必要な書類を準備していると、
僕「・・・無い。」
僕「無い、無い、無い!」
僕「パスポォートがああああ、無いいいぃ〜〜〜!」
僕「(発狂)」
家のどこを探しても自分のパスポートが無いのです。これがなければ、銀行口座開設はおろか、大学にCheck-inもできず、仕事を開始できません。パスポートの再発行となれば、Hurricane Harveyで甚大な洪水被害の中、Houstonの日本大使館に赴かなくてはなりません。というか、そもそもレンタカーが借りれないのだからその交通手段もありません。はいオワタ。こればかりは一時間以上落ち込みました。
あの時の気持ちが去来します。
「なんだか悪い予感がするな」 旅路につきながら、そう思わずにいられませんでした。
テキサス研究留学日記のその後の話(前編) - テキサス研究留学日記
ああ、これが本物か。ああ、なんてことだ。しかし、一時間以上落ち込んだところで(当たり前だが)状況は何一つ変わりません。まずは駄目元で銀行に行って凍結した口座の解除を試み、それから昨日訪れたところを隈なく捜索することにしました。自転車にまたがり、さて行くかと覚悟を決めた時、一台の車が目の前に現れました。
見覚えのある、白く輝くトヨタSUVでした。
Brett「車の後部座席にパスポートを見つけたんだ。君のだろう?」
僕「そ、そうです!」
宗教によって色々あるだろうが、もしこの世に神がいるならば、今の僕にとってBrettがそれでした。さらに、まだ生活環境が整っていないことを言うと、一緒に買い物に行ってくれることに。3時半にアパートに来てくれると言うことで、それまでに他の手続きを行うことになりました。
それからは、銀行口座凍結解除、大学にCheck-inを立て続けに終わらせ、Brettと買い物に行きました。お店は全てBrettのオススメのお店。寝具、バス用品から食材などを2時間程度で一気に行いました。
Brett「これは"Power shopping"っていうのさ!」
何もなかったアパートの部屋が一気に整い、まるで夢のようでした。Brettには感謝の意を表して、富士山が描かれた和扇子を贈りました。これでも全然足りないのだが、Brettはとても喜んで、「また困ったことがあったら連絡して!」と言い残して去って行きました。
後でわかったことだが、Brettの名刺にはC.E.Oと書かれており、数百人の従業員を抱える社長であることがわかりました。これぞリーダーだ、こんなリーダーの元で働ける従業員は、きっととても幸せなのだろう。僕はこの先、理想の人間像としてBrett以上の人が現れることはないだろうと思いました。僕もこんな人になりたい。
その日も疲れ果てたが、その日に届いたふかふかのベッドで就寝しました。
いよいよ仕事開始!
さて、いよいよ9月1日になり、こちらの大学で仕事が始まりました。といっても、今日は事務手続きが中心で、大学の中の施設を行ったり来たりしました。ある程度仕事が落ち着いた午後、前回の留学の受け入れ教授であり、グループの上司であるY教授に呼ばれました。いよいよ研究課題を与えられます。研究内容なのであまり詳しくは言及できないが、そこには、
- 今までにない"新しい"雲の物理量の推定手法の開発
- 10年分のそれらのデータを用いた気候学的特徴や変動の解明
- 1ヶ月毎に報告書を提出
- プロジェクトの期限は2017年11月30日
最後の一文で我が目を疑った。前回の留学の際も"新しい"雲の物理量の推定手法の開発研究だったが、論文を書き上げるまで9ヶ月を要しました。それが今回たったの3ヶ月で開発だけでなく10年分のデータ解析をしなくてはならないのだから、胃がキリキリと痛くなるのを感じました。
俺(これ、論文2本分を3ヶ月でやるのか)
早速試されている。研究室の友人にこの話をしたら、どうやらこのプロジェクトについてY教授は今年1月からあてを探していて、9ヶ月経ってしまったのだという。そして、僕が来たらそのプロジェクトがアサインされたのだと。
考えれば考えるほど、胃がキリキリと痛くなる。昔の留学当初の気持ちを思い出していました。当時の日記には、苦しい心境の中、必死に自分を鼓舞するような言葉が書きなぐられていました。でもあの時も結果的に乗り越えたんだ。今回だってやってやる!!!
早速折れかけた心を立て直し、立ち上がろうとするのだが、
それを妨げようとするものは、無情にもさらに降ってくる大量のタスクだった。
続く